しし垣と段々畑発掘プロジェクト

 佐伯地方は豊後水道に面し山々が海に達しリアス式海岸を形成している。平地が乏しく食糧確保の為に人々は急峻な山を畑に変えるしか術がなかった。かつては天を衝くようにその尾根まで段々畑が這い上がっていた。言語に絶する労力を要した事は容易に想像がつく。害獣からこれを守る為に周囲にしし垣を巡らす事は当然の帰結であった。段々畑もしし垣も今や殆ど使用される事なく樹木に覆われて廃墟の様相である。

 鶴見半島には特に多くの段々畑としし垣が残っている。しし垣の総延長は十数kmに達する。半島はすっかりウバメ樫に覆いつくされて、それらは死期を前に静かに瞑想しているかのようでもある。その凛とした佇まいと潔さに感動すら覚えてしまう。偉大な民俗遺産を後世に伝えていく責務を覚えずにはおれぬであろう。

九州最東端の鶴御岬のある鶴見半島には多くのしし垣が残っている。見る者に圧倒的な迫力で迫る見事なものである。羽出浦と丹賀浦に段々畑の消長が顕著に見受けられる。

鶴見半島における段々畑の消長(1970年代から2018年までの変化)。ほとんど畑地は消えて自然林(ウバメ樫)に覆いつくされている。

羽出浦に見る段々畑の消長。1970年代の状況。

2108年の状況。かつてこの岬を覆いつくして畑地があったとは思いも及ばないであろう。

丹賀浦における段々畑の消長。1970年代の状況。

2018年の状況。畑地の消滅は人口減と高齢化によるところが大きい。

鶴見半島以外にも佐伯地方の海岸一帯で段々畑の消長は甚だしい。

しし垣と共に多くの見事な段々畑跡が樹林(ウバメ樫)の中に埋もれている。樹木の成長はいずれ石垣の崩壊をもたらすことであろう。

鶴見半島にはしし垣を鑑賞出来る自然研究路(4.9Km)が既にある。ただそれがしし垣同様に樹林に埋もれつつある。これを再活性させるコンテンツを見出すことが重要である。しし垣の脇には昔の里道が朽ちつつあるも未だ並走している。これを繋げばいい。そこにイベントを重ねればいい。天空路と繋げばいい。途上、段々畑を巡ってみることが出来れば尚いい。