佐伯地方の重畳の山々は地質学でいう付加体により形成された。まさにそれが故に山々は大自然による屏風の如きである。その稜線を伝うにつれて遠望する屏風は濃淡をつけて表情を微妙に変えていく。山肌を踏みしめ樹林を縫い、時に行く手に立ち塞がる岩肌を撫でつ、自然の懐に身を委ねると山それぞれが音を奏で始める。水や風や生き物の発する音かもしれない、遠い昔にこの山河に果てた兵どもの鬨の声かもしれない。
やがて山稜の向こうに天と一体となった大海原がまばゆい光を照り返してくる。太平洋だ。空と海と山が溶け合い重なり合って天空に至福の時が訪れる。更に稜線を伝えば豊後水道の向こうに伊予の山々が霞んだ水平線の上に高く蒼く浮かびあがってくる。天空の表情は多彩で興趣の尽きることが無い。疲れたなら途中で里に下りればいい。素朴な人々が暖かく迎えてくれることだろう。天空路7ルート、総距離は130kmを超える。こういう稜線ルートは世にそうは無い、そうは体験出来るものではない。
天空路は佐伯地方の境界線(=稜線)を周回する。その内懐に多様な発見プロジェクトを展開し、途上、これらとの連結路を通じて佐伯地方の自然や歴史文化を探訪出来るようにする。
佐伯地方の天空路の原点となった本匠地区の天空路プロジェクト。天空北路、天空南路、渓谷本路、渓谷山路と名付けて本匠地区の豊かな自然の探勝路の整備を目指す。昔より山間では尾根道を生活道路として利用してきたが元の自然に戻りつつある。その再利用が天空路の原点になった。その整備は急速に消失しつつある民俗文化の保護にも繋がると考えた。
海岸側の天空路からはどこからでも豊後水道の向こうに西予の山々がまさに"天空に浮かび上がって"見える。西予からも佐伯地方が同じような展望かというと全く違う。佐伯地方の天空路からしか手に入らない絶景である。
何故か、西予は1千m級の山々が海岸から直接立ち上がっているから(同じ条件で佐伯地方は500m以下)。西予からの贈り物と言える。
この海岸線の天空路からは1千m級の我が佐伯五山からも贈り物をもらえる。佐伯五山と西予の山々とがこの海岸線から同じ距離にあるからだ。こんな恵まれた天空路はないだろう。
空気が澄んでいる秋口から絶景の季節が始まる。